【連載企画】~育成就労への道~

新着情報

2025年07月03日

育成就労への道

 新たな制度「育成就労」について、今年3月の運用基本方針の決定に続き、夏には運用の詳細に関する省令(施行規則)が公布の見込みで、さらに、年末までには受入れ分野ごとの運用方針が決定の予定と、2027年4月のスタートに向けた準備が急ピッチで進められています。

 育成就労制度の導入は、入管庁ホームページの記事(注1)にも、「技能実習制度を発展的に解消して(中略)育成就労制度を創設し、…」と書かれているとおり、技能実習制度との「制度の置換え」というイメージが強く、今後、新制度の仕組みや運用の詳細が明らかになっていくにつれ、技能実習制度と「横」に並べて比較する機会がさらに増えると思われます。

 一方、同じ記事の後半には、「育成就労制度と特定技能制度に連続性を持たせ…」と、制度の「縦」のつながりについても書かれていますので、本稿では、新制度の導入に至る時系列(縦)の流れを改めて振り返ってみたいと思います。

 技能実習法の新設            

 幾度かの制度改正を経ても、様々な指摘・批判が後を絶たなかった技能実習制度については、アベノミクス第3の矢である「日本再興戦略」の改訂2014年(同年6月閣議決定)において、「国際貢献を目的とするという趣旨を徹底するため、(中略)制度の抜本的な見直しを行い、所要の法案を提出する」こととされました。

 これを受け、2017年11月に新設の「技能実習法」が施行されましたが、その第1条には、「目的」として、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力の推進」が掲げられ、また、第3条第2項には、「基本理念」として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と規定されています。
 技能実習は、人材育成のための制度であって、人手不足対応のための制度ではない、と法律で明示されたのです。

 特定技能制度の創設           

 一方、人手不足と外国人材の関係について、入管白書(注2)には次のように書かれています。

 「人手不足が深刻化する中、2018年2月の経済財政諮問会議において、総理大臣から現行の専門的・技術的分野における外国人材の受入れ制度の改正の検討を早急に進めるよう指示があり、関係省庁タスクフォースにおいて様々な検討を行った。」

 「深刻な人手不足に対応するため、『経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太の方針)』(2018年6月閣議決定)において、『従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある。
 このため、真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため、新たな在留資格を創設する。』こととされた。」

 以上を受けて、2019年4月に施行された改正入管法により、「特定技能制度」が創設されました。
 この制度で新たに設けられた在留資格「特定技能1号」によって、「専門的・技術的」、「semi skilled(セミ・スキルド)」の分野に外国人材を受け入れる道が開かれ、我が国の外国人労働者政策の極めて大きな転換となりました。

 閣僚会議の設置             

 前述の入管法改正の国会審議に先立つ2018年7月、総理大臣以下ほとんどの閣僚の出席の下、第1回の「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(以下「閣僚会議」)が開催されました。

 この会議の議事録(注3)には、
 「『骨太方針』での新たな在留資格の創設の決定を受け、受入れ環境の整備について、政府一体となって総合的な検討を行うため、本会議の開催に至った。」

 「法案成立後速やかに、業種横断的な基本方針と受入れ業種・方針を閣議決定する必要がある。」

 「在留外国人の増加が見込まれ、雇用や生活に支障が生じないよう多言語対応、日本語教育等の生活環境の整備が今回の制度での円滑・適切な受入れの鍵である。」
と書かれています。

 特定技能制度の創設を契機に、総理大臣以下の多くの閣僚が、外国人材の受入れについて継続的に協議する場が設けられたのです。

育成就労制度の創設           

 技能実習法と改正入管法では、一定の時期に、法律の施行状況や制度の在り方について検討すると規定されていることを受け、閣僚会議の下に「技能実習・特定技能制度に関する有識者会議」を設けることが決定されました。
 有識者会議からの最終報告書の提出を受けて、閣僚会議で技能実習制度に代わる「育成就労制度」の創設が決定され、2024年6月、入管法の一部改正とともに、「技能実習法」の「育成就労法」への改正が国会で可決成立しました。

 改正入管法と育成就労法では、特定技能・育成就労制度の基本方針・分野別運用方針の作成には、「知見を有する者」の意見を聴取しなければならないと規定されています。
 これを受けて、閣僚会議の下に「特定技能・育成就労制度の基本方針・分野別運用方針に関する有識者会議」を設けることが決定され、有識者会議での意見等を踏まえ、今年3月の第21回閣僚会議(注4)で「特定技能・育成就労制度の運用に関する基本方針」が決定されました(同日閣議決定)。(注5)

 特定技能制度を契機とする閣僚会議において、技能実習制度の解消と育成就労制度の創設、特定技能制度と育成就労制度を一括した運用の基本方針が決定されたのです。

 育成就労は特定技能0号?         

 「育成就労法」では、
○「育成就労機構」による「育成就労計画」の認定
○「育成就労機構」による「監理支援機関(旧監理団体)」の許可
○「監理支援機関」による「育成就労実施者」に対する監理
○ 試験による育成評価
など、技能実習制度の基本的な枠組みが受け継がれています。

 しかし、育成就労制度について、前述の制度運用の基本方針では、
○ 特定産業分野(特定技能の受入れ分野)のうち、我が国における就労を通じて修得させることが相
 当な分野の技能を有する人材育成と人材確保の仕組みを構築する
○ 育成就労外国人は、特定産業分野のうち、特定技能1号水準の技能を3年間の就労を通じて修得
 させることが相当な分野に限って受け入れる
とされています。

 育成就労は、その成り立ちや制度の運用に係る検討過程を見ても、技能実習とは「形は似ていても、中身は別物」と言えます。また、その位置付けも、技能実習に代わるものではなく、独立した制度というよりも、特定技能の系譜にあって未熟練な人材の確保に比重が置かれた「特定技能0号」というポジションがしっくりくるように思います。

 閣僚会議は続く…            

 最近では、今年6月6日に第22回の閣僚会議が開催されています。(注6)
 同会議では、鈴木法務大臣が次のような発言をされています。

 「今後本格的な少子高齢化・人口減少時代となる中、外国人材は我が国経済の維持・発展に不可欠な存在として期待されます。(中略)
 私は、外国人の受入れについて、中心的な役割を持つ出入国在留管理行政を担う法務大臣として、まずは経済学、社会学や諸外国の受入れ政策等に精通した有識者勉強会という形でお招きし、様々な御意見・御議論をお聞きしてきました。
 今後速やかに、受入れの在り方を検討する上での論点を法務省内で整理し、本年7月頃に示すことを考えています。その後の検討は、政府一体で総合的に行うことが必要です。皆様の御理解・御協力をいただけますようお願い申し上げます。」

 また、石破総理大臣も、次のような発言をされています。
 「多岐にわたる施策を総合的に推進する司令塔機能を強化するため、この閣僚会議の体制を拡充するとともに、政府横断的な取組方針の策定も見据え、内閣官房に事務局組織を設立することといたします。
 関係閣僚におかれては、外国人との秩序ある共生社会の実現に向け、相互に連携しながら、制度・施策の点検や見直しを進め、必要な対策を着実に推進していただくようお願いいたします。」

 閣僚会議における外国人受入れ政策を巡る検討は、今月にも新たな、そして大きな展開があるようです。

 アイム・ジャパンでは、引き続き閣僚会議の動向をフォローし、随時皆様にお知らせいたします。

 なお、閣僚会議の下におかれた有識者会議でも、特定技能の受入れ分野や既存分野の業務区分の追加のほか、育成就労制度の受入れ分野、技能評価試験の整備などについて検討が行われていますが、その状況については、また別の機会にお伝えできればと思います。

(注1)「育成就労制度・特定技能制度Q&A」のQ1のA
https://www.moj.go.jp/isa/applications/faq/ikusei_qa_00002.html


(注2)2019年版「出入国在留管理」第2部第1章第1節
https://www.moj.go.jp/isa/content/930004562.pdf


(注3)外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(第1回)議事録
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai1/gijiroku.pdf

(注4)外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(第21回)議事録
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai21/gijiroku.pdf

(注5)外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(第21回)資料1-1
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai21/siryou1-1.pdf

(注6)外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(第22回)議事録
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai22/gijiroku.pdf

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